宇部方式の歩み

ウェブ番号1002755  更新日 2022年11月15日

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ダスト・イズ・マネー

1949年(昭和24年)から1958年(昭和33年)

1950年代の工場群の写真

吐き出される工場からの黒煙

写真:1950年代の工場群


工業力を中心に戦後の復興を目指していたわが国においては、工場の煙突から出る黒煙が発展のシンボルでもありました。本市においても、石炭産業の発展とばいじん汚染は宿命であると考えられていました。宇部炭は一般に灰分が40%と多く、発熱量は1キログラムあたり3,000から3,500キロカロリーの低カロリーで、そのまま燃焼させることは難しく、微粉にして空気と一緒に焼却炉へ吹き込み、燃焼させていました。これにより、多量のばいじんを排出し、市街地では洗濯物を汚し窓も開けられない状態が続き、ばいじん汚染が市民生活と健康への影響に大きな問題となってきました。

そこで、1949年(昭和24年)に市議会で反ばいじんの動議が提案されると満場一致で可決され、市議会内に「宇部市降ばい対策委員会」が設置されました。「宇部市降ばい対策委員会」は早速、汚染の実態調査を開始しました。依頼を受けた野瀬善勝山口県立医科大助教授は、各工場で消費する石炭の品質、数量、ボイラーの種類、集じん装置の有無などの発生源の実態調査とともに、市内10箇所で降下ばいじん量の測定を開始しました。これと同時に大気汚染と市民の健康への統計的な疫学調査も行われ、国内でも初めての組織的、系統的な大気汚染調査の始まりとなりました。

その後、毎月の降下ばいじん量の調査結果や疫学的な調査データが地方紙に発表され、1951年(昭和26年)には、降下ばいじん量がひと月1平方キロメートルあたり55.86トンを記録し、世界一灰の降る街と報じられるなど情報の公開とともに、ばいじん対策への市民意識が高まりました。また、成分調査結果からばいじんは、炭素分の少ない完全燃焼産物であり、その対策はそれまで国内で主流であった燃焼方法の改善よりも、集じん装置の整備が必要なことが判明しました。そこで、「宇部市降ばい対策委員会」はこれらの科学的調査データを基に、1.対象工場では集じん装置の設置、2.街路の防じん用散水車の購入、3.防じんのために、道路に植樹する等市内の緑化を推進するなど、対策が市議会で決議されました。

1951年(昭和26年)には、条例を制定して「宇部市ばいじん対策委員会」が設置されました。この条例は、大気汚染の規制基準や罰則を設けず、委員会は市長を委員長として、企業代表4人、行政4人、学者2人、市議会代表4人から組織され、科学的調査データを基に、話し合いによる発生源対策を第一主義に、自分たちの住んでいる地域社会の健康は自分たちで守ろうという自治意識のもと、ここに「産・官・学・民」による「宇部方式」の基礎ができあがりました。委員会は各企業に対してばいじん防止対策の現況調査報告書の提出などを求めました。しかし、産業経済の発展を最優先させなければならない事業者側との意見の食い違いは否定のできないものでありました。当時、市内10か所に設置したばいじん計が、何者かによって壊されるといったこともありました。

こうしたなか、1954年(昭和29年)には、宇部興産株式会社副社長の中安閑一氏が「スモッグの街」から緑豊かな街へ生まれ変わったアメリカのピッツバーグ市を視察し、市と企業の発展のためには、ばいじん対策の実施が欠かせないことを「宇部市ばいじん対策委員会」に提言し、社内では「ダスト・イズ・マネー」を合い言葉に、積極的に公害対策に取り組むことになりました。

1956年(昭和31年)には、焼却灰をセメントに混ぜてセメントの凝結力や耐水性を上昇させた「宇部ポゾランセメント」を開発しました。この「宇部ポゾランセメント」は、ダムや海底の工事で威力を発揮し、10年間で15億円を売り上げ、集じん装置設置の資金となり、ここに事業者の発想の転換が見事に証明されました。

こうして、時代を先取りした形で廃棄物の有効利用を図るとともに、集じん装置の改良や新設など、市内の事業者による積極的なばいじん対策が始まりました。1957年(昭和32年)には、市長と事業者と学識者で組織された首脳懇談会がもたれ、煙突からの排気ガス中のばいじん濃度を1立方メートルあたり1.2グラムと設定し、1960年(昭和35年)を目標年次としました。この数値は1立方メートルあたり40グラムのばいじんに対し、集じん装置の集じん効率を97%として導かれ、この目標値は1962年(昭和37年)に実施された国の「ばい煙の排出の規制等に関する法律」の規制基準値の設定に採用されました。

電気集じん装置(コットレル)運転休止中と運転中の煙突の比較

降下ばいじんの成分調査の結果を受けて、各工場に次々と設置された。「宇部方式」の取り組みの第一歩と言えます。

写真:電気集じん装置休止中で煙が多い煙突の様子

写真:電気集じん装置運転中で煙が少ない煙突の様子

ばいじん世界一の汚名返上

1959年(昭和34年)から1968年(昭和43年)

1960年代の市街地の写真

各工場へ集塵装置が設置された結果、青い空を取り戻しつつある市街地

写真:1960年代の市街地


1959年(昭和34年)にロンドンで開催された世界で初めての大気汚染の国際会議で野瀬善勝教授が、宇部市の事例をもとに「市民の保健に及ぼす大気汚染の影響について」特別講演を行い、貴重な研究であると高い評価を受けました。

市内主要工場は、サイクロン(遠心力集じん装置)やコットレル(電気集じん装置)などの新増設に努め、1951年(昭和26年)から1964年(昭和39年)までに当時の費用で、11億3千万円の設備投資がなされました。

1959年(昭和34年)には、ばいじん防止の専門的な技術の研究や調査を行うため「宇部市ばいじん対策委員会」の下部組織として、「技術部会」を設置し、主要工場の煙道排ガス中の含じん濃度の測定を開始しました。

こうした努力が実り、1961年(昭和36年)の降下ばいじん量はひと月1平方キロメートルあたり16.0トンと最もばいじん量が多かった1951年(昭和26年)のひと月1平方キロメートルあたり55.9トンに比べ10年間で約3分の1に激減しました。1960年(昭和35年)には、排気ガス中のばいじん濃度の目標値の1立方メートルあたり1.2グラムを市内5工場で達成しました。

1960年(昭和35年)、石炭から石油へと燃料エネルギーの変換により亜硫酸ガスなどの対策が問題となり、「宇部市ばいじん対策委員会」を「宇部市大気汚染対策委員会」へと改組しました。

同年、ばいじん対策で得た経験のもとに市内17箇所でPbO2法による亜硫酸ガス濃度の測定を開始し、亜硫酸ガス対策に着手しました。この間も、野瀬善勝教授による大気汚染と市民の健康への影響調査研究が続けられ、トラコーマやジフテリアなどの病気とばいじんや亜硫酸ガスとの間には相関関係があることなどが判明し、これらの結果は市民にも報告され、積極的な環境改善の運動を展開するようになりました。

一方、宇部市女性問題対策審議会では、都市の美化活動を提言し、「街を花で埋めよう」と市内の各企業から募金を集めて、種子を市民にプレゼントするなどの緑化運動を推進し、「花壇コンクール」へと発展していきました。市は緑化運動として、多くの街路樹を植え、現在では人口一人当たり0.5本以上の街路樹が植えられております。これらの取り組みや運動は、山口県で1963年(昭和38年)に開催された、第18回国体にも影響を与え、「山口花国体」と名付けられ、見事に開花しました。

また、1961年(昭和36年)には、日本最初の試みとして、「野外彫刻展」が開催され、後に、国内トップクラスの「現代日本彫刻展」として成長しました。

こうして、1965年(昭和40年)には、一度は失われた青空を取り戻し、ばいじん追放に成功し国民安全に寄与したとして、内閣総理大臣賞を受賞しました。同時に「宇部方式」の取り組みが公害問題で悩む県内各都市をはじめ、全国的にも注目され、「宇部方式」の手法が普及していきました。

総合的な環境保全対策への取り組み

1969年(昭和44年)から1988年(昭和63年)

1980年代の市街地の写真

以前のような、ばいじんの街といったイメージはなく、住民が安心して生活できる街へと生まれ変わりました。

写真:1980年代の市街地


公害防止条例を設けず、「宇部方式」による自主的な規制でばいじん対策に成功した本市も、公害問題は大気汚染だけでなく、水質汚濁、騒音・振動、悪臭問題と複雑化してきました。これらに積極的に対処するため1970年(昭和45年)に「宇部市大気汚染対策委員会」を解散し、「産・官・学・民」の代表者各8名の構成による「宇部市公害対策審議会」が発足しました。

1971年(昭和46年)に、市内主要工場と公害防止協定を締結し、工場の新増設の施設を対象として、公害の未然防止を図るため、市との事前協議制を開始しました。翌年には、大気、水質、騒音の具体的な数値を盛り込んだ公害防止協定に基づく細目協定を締結し監視測定体制を充実させ、総合的な公害対策に取り組みました。企業も集じん装置の整備を図るとともに、硫黄酸化物対策は、脱硫装置の設置や低硫黄の重油の使用に努め、窒素酸化物対策は排ガス吸収法、ボイラーには低NOxバーナーを使用するなどの対策により、硫黄酸化物や窒素酸化物の減少に努めました。

1976年(昭和51年)に「宇部方式」の精神を基調として、公害の未然防止に努めるだけでなく、さらに進んで自然や社会の良好な環境を維持改善していくことを趣旨とし、市民、事業者、行政の環境保全に関する責務を明らかにした「宇部市環境保全条例」を制定し、総合的な環境保全対策への取り組みが始まりました。1973年(昭和48年)に、国内でもいち早く、工場排水中に含まれる窒素、リンの排水基準値を決定し、企業と締結しました。1979年(昭和54年)、山口宇部空港のジェット化に伴い、「山口宇部空港騒音等問題協議会」を発足し、空港騒音の実態調査や周辺住民の健康への影響調査も実施されました。また、市民の飲料水源である小野湖・厚東川水系の水質浄化対策として、厚東川水系水質保全協議会の研究調査報告書などを踏まえた水質保全対策を行うなど、幅広い監視測定体制の整備と公害の未然防止に積極的に取り組むことになりました。

「豊かな自然と住みよい環境をはぐくみ、持続可能な社会をめざすまち」の実現に向けて

1989年(平成元年)から

現在の工場群

写真:現在の工場群


近年、環境問題は、産業公害から身近な都市生活型公害、自然環境の保全、さらには地球環境問題へと幅広く移っていきました。そこで、これらの環境問題に積極的に対応するため、環境基本法に基づき、1994年(平成6年)に「宇部市公害対策審議会」を「宇部市環境審議会」へ発展的に改組しました。1995年(平成7年)には、市民工房や学習室を設置した宇部市リサイクルプラザを建設し、資源の節約や廃棄物の減量を図るとともに、市民が楽しみながらリサイクル体験を学習する場として活用しています。

また、地元企業においては、宇部アンモニア工業有限会社のアンモニア製造工程から排出される二酸化炭素をパイプラインで送り、宇部興産株式会社の液化炭酸の原料や、セントラル硝子株式会社宇部工場のガラス製造用原料として融通利用に努めるとともに、廃棄物対策として、可燃性廃棄物を原料とした固形燃料を製造する計画や、宇部興産株式会社と市が協同で、市の下水浄化センターにより排出される汚泥を石炭ガス化プラント用の原料に混入させ、アンモニアの原料として有効利用する実証プラントが進められております。

1997年(平成9年)、これまでの「宇部方式」による公害対策の取り組みが国際的にも高く評価され、国際連合環境計画(UNEP)から「グローバル500賞」を受賞しました。また、この受賞は、「宇部方式」の精神と手法が、公害問題を抱える開発途上国における「環境の保護および改善」に広く活用できるものとして期待されたものであります。

同年には、国や県等の共催のもと、地元企業や報道機関の協力を得て「山口・宇部'97国際シンポジウム」を開催し、国の内外の専門家を集め、「公害対策の原点から地球環境保全を探る」をテーマに、都市大気汚染問題と地球温暖化問題に対する方策や国際協力の推進について論議し、「宇部方式」の精神を核とした「宇部アピール」としてまとめ、アジアへそして世界へ広く発信しました。また、同年韓国で開催された「韓国国際環境セミナー」では、宇部市環境審議会会長が本市の大気汚染対策の事例発表を行うとともに、12月に京都市で開催された「気候変動に関する国際連合枠組条約第3回締約国会議(COP3)」の関連ワークショップでは、宇部市長が「宇部方式」の精神と公害対策の事例発表を行い、諸外国の参加者からは、「宇部方式」の精神と手法を伝えて欲しいと大きな支持を得ました。

「グローバル500賞」受賞都市にふさわしい国際環境都市をめざす本市は今後、国際的にも評価された「宇部方式」による公害対策を一層推進するとともに、リサイクル社会、省エネルギー都市の形成など資源循環型社会の実現に努めてまいります。また、「宇部方式」による「産・官・学・民」の連携と高度な産業集積、大学・研究機関の充実などを本市の宝とし、また、テクノポリス圏域の母都市として、県や関係市町の協力を得ながら、環境産業の振興を進めてまいります。さらに姉妹都市ニューカッスル市や友好都市威海市との国際環境交流をはじめ、アジア諸国へ「宇部方式」の手法と公害防止技術などを移転する手法を研究してまいります。

1998年(平成10年)、地球環境問題をも視野に入れた総合的かつ長期的な環境保全行政に取り組むため、環境基本法や宇部市環境保全条例の理念に基づき、「宇部方式」の精神を盛り込んだ「宇部市環境基本計画」を策定し、さらに、2010年(平成22年)には「第二次宇部市環境基本計画」を、2023年(令和4年)には「第三次宇部市環境基本計画」を、それぞれ策定しました。この計画に基づき、「緑と花と彫刻に囲まれた 豊かな自然と住みよい環境が共存する持続可能なまち 宇部」の実現に取り組んでまいります。

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